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2026/02/17

遅刻バレンタイン

遅れましたがバレンタイン記念シゲマイ単発で。
それにつけても、時間の流れは飛ぶがごとくですね。



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What's next ?  

なんだか、今朝の自分は気に入らない。
起き抜けに見た、鏡に映る顔をみて、麻衣子は思った。
昨日の夜、なかなか寝付けなくてお肌の調子がイマイチだとか、今日という日がとりわけ憂鬱でそれが表情に出ているのだとか、理由はいろいろあるけれど、とにかく、麻衣子の溢れる自信の基となる容貌が冴えないとあっては、一日の始まりとして最良とはいえない。

鞄の中にラッピングされた箱が入っているのを確かめ、普段よりも赤らんだ頬は寒さのせいだと言い訳して、家を出た。

通学路で、昇降口で、すれちがう生徒達の表情が、いつもと違って見えるのは麻衣子の気のせいだろうか? チョコレートらしき紙袋を抱えている女の子たちも大勢見かけた。ああ、あの娘も、あの娘も!
誰にあげるのかしら? 一体誰に? 
去年だったら気にもしなかったのに、あの金髪頭は学年問わず、なぜか女子に人気があるんだ、なんてことは。
麻衣子は思わず鞄を抱きしめた。ちゃんと渡せるだろうか? 受け取って貰える? ふざけて突き返されたりは、しないだろうか? 

「お嬢、おはよー」
「……おはようございます」
ゆっくりと振り返って見た彼は、小さな紙袋をみっつ、手にぶら下げていた。

部活が終わり、体操着から制服に着替えて外に出ると、待ちかまえていた佐藤成樹が手を振ってきた。
彼が浮かべている、人を食ったようなその笑みが気に入らない。
大きな紙袋2つに膨らんだ彼の"戦利品"をちらっと睨んで、麻衣子はすげなく言った。
「今日は、一人で帰りますわ」
「危ないから送ったるって。……もしかして、妬いとるん?」
そのセリフは無視して歩きだした麻衣子の三歩後ろから、シゲがついてきた。

歩きながら、この距離は久しぶりだと麻衣子は思った。
夏の、はじめ頃からだろうか。
練習で遅くなった時、暗くなってしまった時、こんな風に彼は、少し離れて麻衣子の後ろを歩いていた。
きっと帰る方角が一緒なんだと、はじめは単純に思っていたけど。
並んで一緒に帰るようになってしばらくしてから、実は彼は、かなり遠回りをして、わざわざ送ってくれていたのだと麻衣子は知ったのだ。
軽口ばかりの彼の本音を覗いた気がした。どうしたらいいのかわからなかった。その時は、どう応えていいのか、わからなかった。
そしてそのまま、並んで帰るのが当たり前になって。また明日、と別れるのが当たり前になっていて。

景色はもう、仄かに暗い。
息は白い。

彼は、麻衣子の歩調に合わせて、麻衣子の後ろを歩いている。歩いてくれている。
思えば最初から、そうだった。

「なぁお嬢、大事なモン忘れとらん?」
麻衣子の家まであと一息、というところで掛けられた声に、麻衣子は立ち止まる。
麻衣子は黙ってシゲの顔を見つめた。
数秒経過の後、シゲががっくり頭を落とす。
「なんやお嬢ー、俺、期待しとったのにー」
「馬鹿なこと、言わないでいただけます!」
思わず、麻衣子は言った。シゲが期待? 麻衣子に、何を? ……本当に?
「俺、ホンマに欲しかったんやで」
「……なによ」何が言いたいのよ、と麻衣子は視線をまっすぐシゲに向けた。
「せやからぁ、俺は」
切った言葉の続きを、麻衣子は待った。"バレンタインチョコ下さい"とお願いされれば、麻衣子だって素直に渡せるのだ。
そう、麻衣子が、シゲのことをどう思っているかはともかく……麻衣子の鞄の中のチョコレートが、本命か義理かも、ともかくとして。
彼の言葉を、麻衣子は待った。
シゲは、何か覚悟を決めたような、真面目な顔になった。
ふと予感がして、麻衣子は瞬間的に怖じけた。
「俺は麻衣子のことが」
待ってまってまだその言葉は聞きたくない!!
麻衣子は全身で続きを拒んで、シゲから目をそらすと、鞄を開けて、ラッピングされた箱をつかみ出した。
一見してチョコレートとわかるそれを見てシゲは一瞬頬を緩めたが、誤魔化されはしなかった。
「なんで今なん?」
「どうして私が、他の子の目の前で、あなたにチョコなんか差し上げなくちゃなりませんの!」
乱暴にシゲの胸に箱を押しつけると、麻衣子は家へ向かって走り出した。一度も振り返らなかった。シゲも追いかけて来なかった。
家の門に手を掛け、弾む心臓の鼓動を宥めながら、明日どんな顔をすればいいんだろう、ああもう、今日もきっと寝不足だわ、と思い悩んだ麻衣子だった。

END




素直になれないお嬢。シゲが他の娘に行っちゃうのは嫌だけど、シゲが本気になると、逃げ出したくなるらしいです。小動物系です。
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2008/02/18 笛小説 Trackback() Comment(0)

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