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2026/02/17

占いは信じない主義7


 
  占いは信じない主義7


最寄駅から、上條麻衣子の家までの距離を二人で並んで歩いていた。
夜の10時近く。駅前から続く商店街は、飲食店を除いて、もう閉まっている時刻だった。
「なんや、店も変わったりしとるなぁ。コロッケ貰ぅてた、この肉屋のばぁちゃん、まだ生きとるん?」
「おばあちゃん? わからないわ。でも、中学を卒業してから、5年経ってるから、どうかしらね。おいくつぐらいだったの?その方」
「あぁ、80は越えとったんちゃうか」
「なら、90歳近くになるのね、お元気なら」
「せやな。もう居らんかもわからんな、うちの寺の住職はまだ元気らしいねんけどな。久しぶりやもんなぁ、こっち来たん」
しみじみとシゲは言った。
「高校ん時は、偶に顔出しとったんやけどな。こんなに足が遠のく思わんかったわ」
「そういうものなんじゃない? 私はまだ、家から通ってますけど。進学や就職で、出て行った同級生も多いわよ」
「まあなぁ。俺かて、知り合いの顔浮かべたら、地元はもう京都っちゅー人間やもんな」
「……そうよね、もう5年も向こうに住んでるんですものね」
「ま、あっちゅー間やったけどな、今まで。気ぃついたら、お嬢にもずっと会ぅてなかったんやもんな」
いつの間にか、上條麻衣子の家が見えるところまで来ていた。
ポーチライトのみで、室内には明かりのついていない、豪奢な家。
「今日、お嬢の誕生日で、ええんよな」
意を決して、シゲは言った。
「そうよ、だから今日は、私の誕生祝いにってことだったのよ。ケーキも出てきたし、プレゼントも貰ったわよ」
「合コンと一緒にってのも微妙だったんちゃう? お嬢、ご両親は今日は?」
シゲはあごで、目の前に迫った彼女の家をさした。
彼女はシゲを見上げて、軽く、優しげに、寂しげに笑った。
「本当は、両親揃って食事の予定だったんですの。でも、友達に祝ってもらうからって、別の日にしてもらったわ」
「10時が門限なんやろ、戻ってきとらんやん」
「いつものことよ。どうしたの?」
「お嬢、寂しくならへんの?」
「何のこと?」
「二十歳の誕生日やろ。特別な日やんか」
「そう言われれば、そうよ。でも、明日お祝いされるのも、それほど違わないわ」
ね? そう言って彼女は駄々っ子を宥めるように軽く首をかしげた。
さらりと黒髪が夜風になびいた。
「ちゃうよ、ちゃうやんか」
シゲは言葉を重ねた。シゲが二十歳になった時は、大勢で騒ぎ、飲んだくれた。それはプロ選手というシゲの立場ゆえかもしれないが。
「佐藤、ありがとう。でも大丈夫よ」
「俺は大丈夫やあらへんよ。カード一枚で、おめでとうで終わらせられん」
「大丈夫だから。あなたのカード、毎年、とても嬉しかったわ。ありがとう。今年もあるの?」
「届いてるんと違う?」
彼女はポストを開ける。DMにまぎれて、シゲのカードはきちんと入っていたようで、彼女の手の中にカードがあるところをシゲは初めて見た。
「来てたわ。……相変わらず、一言だけなのね、誕生日おめでとうって」
「まぁ……なんや、色々書くのも恥ずかしゅうて」
「そうよね、私も書かなかったし。直接会って、お礼言えてよかった。今日は本当に、びっくりな日ね」
彼女はじっとカードを見つめたまま言う。
「ありがとう。大事にするわ、バースデーカード。20歳の記念に」
「お嬢、今度、デートしよや。俺も誕生祝いしたる」
彼女が視線を上げて戸惑いの表情を浮かべ、シゲを見た。
「あかんかな? 嫌か?」
「いえ、でも、どうして?」
「どうしてって…」シゲは口ごもった。単純に、彼女の誕生日をちゃんと祝いたい気になったのだが。
「俺がお祝いしたいから。今日の分、もういっぺん。俺、お嬢が何を好きなんか知らんし。どんなカードが好きかも知らんよ」
少しの間、沈黙が下りる。
沈黙を切ったのは、彼女の方。
「ねぇ、聞いてもいい? どうして、カードを毎年くれるの?」
「お嬢がくれてたからやんか。お嬢はなんで?」
「それは……あなたが、送ってくれてたからよ、きっと」
「さよかぁ。お互い律儀やったんやなぁ」
「っ、そうね」
シゲは彼女の顔をじーっと見つめた。
「何よ」
「ん、本当かなぁ思ぅて」
「本当よ、別にたいして意味があった訳じゃないわよ」
「俺は結構、心こめて送っとったんやけどなぁ」
「そうなの?」
「ん、そういう事にしとって、とりあえず」
「意味がわからないわ」
「ええよそれでも」
彼女がきょとんとした顔でシゲをじっと見つめている。
シゲは、彼女に触れたい、キスしたい、と思っていた。もちろん、言わないが。
「ほな、そろそろ戻るわ。お嬢、誕生日、おめでとう」
シゲは軽く手を挙げて、家へ入るよう促した。
「ええ、ありがとう。送ってくれて。これからどうするの?」
「ホテル帰って寝るわ。明日朝イチで京都」
「そう。遅くまで付き合わせちゃったわね」
「ええよ、まだ宵の口やし。十分やって」
「気をつけて。おやすみなさい」
「おお、お嬢も。おやすみ」
と、会話が途切れた。シゲも彼女も、立ったまま動かない。
彼女も名残惜しいとか思ってくれてたら嬉しいのだが。
「ほら、門限過ぎ取るで。はよ中入りぃ。危ないで」
なんだか釈然としない表情の彼女。
「今度また、会おうや。メールする」と言うと、頷いた。
「……そうね」
玄関へのステップを上り、ドアを開ける彼女。
振り返って手を振る彼女に、シゲは手を振り返して、ドアが閉まり室内に明かりがともるのを見届け、踵をかえした。


色々考えて駅への道を歩いた。
なんやお嬢とおると妙に落ち着くなぁとか。
何年も会ぅてないのに、昨日の続きみたいやったなぁとか。
でも何や、酒も抜けとるのに、抱きしめたい思ぅたなぁとか。
したら絶対嫌われたやろけど、キスとかしたかったなぁとか。
寂しそうやから笑わしたかったなぁとか。
俺に脈があったらええなぁとか。
今からでも、プレゼントを届けた方がいいか、とか。
でも花屋なんかもう閉まってもうてるし。
色々。

長年の曖昧な関係が、終わったのか、新たに生まれたのか。よくわからないが。

とりあえず、彼氏はいないようなので。
これからが勝負だろうと思ったシゲだった。

 

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2012/09/26 笛小説 Trackback() Comment(0)

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