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占いは信じない主義7
最寄駅から、上條麻衣子の家までの距離を二人で並んで歩いていた。
夜の10時近く。駅前から続く商店街は、飲食店を除いて、もう閉まっている時刻だった。
「なんや、店も変わったりしとるなぁ。コロッケ貰ぅてた、この肉屋のばぁちゃん、まだ生きとるん?」
「おばあちゃん? わからないわ。でも、中学を卒業してから、5年経ってるから、どうかしらね。おいくつぐらいだったの?その方」
「あぁ、80は越えとったんちゃうか」
「なら、90歳近くになるのね、お元気なら」
「せやな。もう居らんかもわからんな、うちの寺の住職はまだ元気らしいねんけどな。久しぶりやもんなぁ、こっち来たん」
しみじみとシゲは言った。
「高校ん時は、偶に顔出しとったんやけどな。こんなに足が遠のく思わんかったわ」
「そういうものなんじゃない? 私はまだ、家から通ってますけど。進学や就職で、出て行った同級生も多いわよ」
「まあなぁ。俺かて、知り合いの顔浮かべたら、地元はもう京都っちゅー人間やもんな」
「……そうよね、もう5年も向こうに住んでるんですものね」
「ま、あっちゅー間やったけどな、今まで。気ぃついたら、お嬢にもずっと会ぅてなかったんやもんな」
いつの間にか、上條麻衣子の家が見えるところまで来ていた。
ポーチライトのみで、室内には明かりのついていない、豪奢な家。
「今日、お嬢の誕生日で、ええんよな」
意を決して、シゲは言った。
「そうよ、だから今日は、私の誕生祝いにってことだったのよ。ケーキも出てきたし、プレゼントも貰ったわよ」
「合コンと一緒にってのも微妙だったんちゃう? お嬢、ご両親は今日は?」
シゲはあごで、目の前に迫った彼女の家をさした。
彼女はシゲを見上げて、軽く、優しげに、寂しげに笑った。
「本当は、両親揃って食事の予定だったんですの。でも、友達に祝ってもらうからって、別の日にしてもらったわ」
「10時が門限なんやろ、戻ってきとらんやん」
「いつものことよ。どうしたの?」
「お嬢、寂しくならへんの?」
「何のこと?」
「二十歳の誕生日やろ。特別な日やんか」
「そう言われれば、そうよ。でも、明日お祝いされるのも、それほど違わないわ」
ね? そう言って彼女は駄々っ子を宥めるように軽く首をかしげた。
さらりと黒髪が夜風になびいた。
「ちゃうよ、ちゃうやんか」
シゲは言葉を重ねた。シゲが二十歳になった時は、大勢で騒ぎ、飲んだくれた。それはプロ選手というシゲの立場ゆえかもしれないが。
「佐藤、ありがとう。でも大丈夫よ」
「俺は大丈夫やあらへんよ。カード一枚で、おめでとうで終わらせられん」
「大丈夫だから。あなたのカード、毎年、とても嬉しかったわ。ありがとう。今年もあるの?」
「届いてるんと違う?」
彼女はポストを開ける。DMにまぎれて、シゲのカードはきちんと入っていたようで、彼女の手の中にカードがあるところをシゲは初めて見た。
「来てたわ。……相変わらず、一言だけなのね、誕生日おめでとうって」
「まぁ……なんや、色々書くのも恥ずかしゅうて」
「そうよね、私も書かなかったし。直接会って、お礼言えてよかった。今日は本当に、びっくりな日ね」
彼女はじっとカードを見つめたまま言う。
「ありがとう。大事にするわ、バースデーカード。20歳の記念に」
「お嬢、今度、デートしよや。俺も誕生祝いしたる」
彼女が視線を上げて戸惑いの表情を浮かべ、シゲを見た。
「あかんかな? 嫌か?」
「いえ、でも、どうして?」
「どうしてって…」シゲは口ごもった。単純に、彼女の誕生日をちゃんと祝いたい気になったのだが。
「俺がお祝いしたいから。今日の分、もういっぺん。俺、お嬢が何を好きなんか知らんし。どんなカードが好きかも知らんよ」
少しの間、沈黙が下りる。
沈黙を切ったのは、彼女の方。
「ねぇ、聞いてもいい? どうして、カードを毎年くれるの?」
「お嬢がくれてたからやんか。お嬢はなんで?」
「それは……あなたが、送ってくれてたからよ、きっと」
「さよかぁ。お互い律儀やったんやなぁ」
「っ、そうね」
シゲは彼女の顔をじーっと見つめた。
「何よ」
「ん、本当かなぁ思ぅて」
「本当よ、別にたいして意味があった訳じゃないわよ」
「俺は結構、心こめて送っとったんやけどなぁ」
「そうなの?」
「ん、そういう事にしとって、とりあえず」
「意味がわからないわ」
「ええよそれでも」
彼女がきょとんとした顔でシゲをじっと見つめている。
シゲは、彼女に触れたい、キスしたい、と思っていた。もちろん、言わないが。
「ほな、そろそろ戻るわ。お嬢、誕生日、おめでとう」
シゲは軽く手を挙げて、家へ入るよう促した。
「ええ、ありがとう。送ってくれて。これからどうするの?」
「ホテル帰って寝るわ。明日朝イチで京都」
「そう。遅くまで付き合わせちゃったわね」
「ええよ、まだ宵の口やし。十分やって」
「気をつけて。おやすみなさい」
「おお、お嬢も。おやすみ」
と、会話が途切れた。シゲも彼女も、立ったまま動かない。
彼女も名残惜しいとか思ってくれてたら嬉しいのだが。
「ほら、門限過ぎ取るで。はよ中入りぃ。危ないで」
なんだか釈然としない表情の彼女。
「今度また、会おうや。メールする」と言うと、頷いた。
「……そうね」
玄関へのステップを上り、ドアを開ける彼女。
振り返って手を振る彼女に、シゲは手を振り返して、ドアが閉まり室内に明かりがともるのを見届け、踵をかえした。
色々考えて駅への道を歩いた。
なんやお嬢とおると妙に落ち着くなぁとか。
何年も会ぅてないのに、昨日の続きみたいやったなぁとか。
でも何や、酒も抜けとるのに、抱きしめたい思ぅたなぁとか。
したら絶対嫌われたやろけど、キスとかしたかったなぁとか。
寂しそうやから笑わしたかったなぁとか。
俺に脈があったらええなぁとか。
今からでも、プレゼントを届けた方がいいか、とか。
でも花屋なんかもう閉まってもうてるし。
色々。
長年の曖昧な関係が、終わったのか、新たに生まれたのか。よくわからないが。
とりあえず、彼氏はいないようなので。
これからが勝負だろうと思ったシゲだった。
太陽の外の国 番外 Smoke
「スポーツ選手にタバコは毒よ」
「おおきに」
そう答えて、シゲは煙をくゆらせた。
3時間ほど前に会ったばかりのその女性は、シゲの隣に横たわりながら、母親のような、姉のような表情を浮かべて、引っ張り上げていたシーツがずれて胸元が覗くぐらいに、盛大にため息をついた。
シゲがさりげなく目を逸らすと、白い手が眼前に伸びてきた。
「私にも頂戴」
「あれ、吸うん?」
「銘柄違うけど、ま、いいわ」
シゲの口元から吸いさしを取り上げて、深く吸い込んで白い煙を吐き出す。
「ずいぶん強いの吸ってるわね」
「軽いと吸った気ぃせえへんもん」
答えて、シゲは新たな一本を取り出してくわえ、火をつけた。
ニコチンが体内を巡って、指先が冷える感覚。軽い目眩。
シゲは瞼を閉じた。
「馬鹿ねえ。タバコなんて、人間には毒なのに」
「そうなんやろな」
毒が体に染み込む感覚が、心地良いのだろう、きっと。
「体力落ちるってわかっとるけどな。やめられんのや」
「あなた、ちゃんと二十歳越えてたっけ?」「ちょうど20」「若いわねぇ。羨ましい」「おネェさんかて若いやろ」「ありがと。でも、四捨五入しちゃうと、そうも言ってられない年なのよねぇ」「ふうん?」「……すっごい興味なさそうなお返事どうも」
寝返りを打ってシゲに背を向けたのだろう、ベッドから軽い振動が伝わってきて、シゲは瞼を上げた。
オレンジのライトが鈍く部屋を照らしている。
脱ぎ散らした衣服。隣の見知らぬ女性。
冷めた現実。
べつにおかしなことではなかった。どれほど頑丈な堤防を築こうと、一度崩れてしまえば、そこから水が流れ出すのは自然の摂理というものだろう。
堤防はどんどん崩れている。
このまま崩れ続けて、空っぽになるのも一興だ、とも思う。
毒だと知りつつ、呑み続けるみたいに。
彼女ではない女と寝るのも、結局はその延長だった。
その対象から受け取る快楽、におい、あたたかさ、
柔らかさなんかが全て、『彼女』を引き立てる材料だった。
そう、声が違う。
仕草が。髪が。
肌が。熱が。
目も魂も、ぜんぶが違う。
結局、誰を抱いても、これは彼女ではないのだと思い知らされる。
焦燥が募るばかりで。
苦しくなるだけで。
彼女に焦がれている。
彼女だけを。
「番号教えようか?」
シャワーを浴び終えたシゲが服を着て出ると、ベッドの上からそんな声が聞こえた。
「ありがたいけど、遠慮しとく」
「なーに、年増には興味ないっての?」
「ちゃうって。おねぇさんせっかくエエ女なんやから、俺みたいのやない、ちゃんとした相手見つけたらええ思て」
「お上手ですこと。でもそのセリフ、そっくりそのまま返すわよ?」いたずら坊主のような表情でシガーケースを差し出された。シゲは受け取ろうと手をのべた。
「まったく、あたしの名前も聞かないんだからね」
シゲは曖昧に笑った。
「聞いとらんかったっけ?」「聞いてない。嘘つきはタバコ没収」中身が抜き取られたシガーケースが投げて寄こされ、シゲは片手でキャッチした。
「タバコやめなよ。年長者の忠告」「吸ってる人が言っても説得力あらへんで」「あたしはいいのよ」「なんで」「悟ってるから」
にやりと笑って言った。
「ひとさじの毒が人生のスパイス」
「……へぇ」
「ちなみに、ひとにぎりの失敗とか、ときめきとか、冒険とか、入る文字は何でもいいのよ。アレンジも可」
「……ちょっとした後悔ってのもスパイスになるん?」「ああ、それもいいわねぇ。貰っとこ。明日の教訓ね」
ばいばい、と背中越しに手を振るだけの、軽い別れの挨拶を頂戴して、シゲは部屋を出る。
あとくされのない相手は、案外手軽に見つかるものだ。
その確信が深まるたび、そんな関係を重ねるたびに、どこかがすり減っていく気がする。
外に出ると、冷たい空気が肌を刺した。また冬が来る。
あれから何度目の冬だろう。
シゲは彼女と並んで歩いた冬の日を思い出した。
ひとさじの後悔、ひとさじの反省。
……ひとさじの恋?
「ひとさじの、あきらめっつーか、なぁ……」
はあ、とシゲは息をついた。
ひとさじで掬いきれるような、軽い恋ではなかった。
スパイスというより、劇物だろう。
致死量寸前の。
次、彼女に会えるのはいつになるだろう。
シゲは、その日を思って、しばしの間、目を閉じた。
時計を見て、もうそろそろ、本当に帰らなければならない時間になった事を確認してから。
上條麻衣子は、藤村成樹をじっと見つめた。
占いは信じない主義6
なんだかずっと、本当に普通の、偶然再会した同級生どうしの会話だった。
緊張はしていたけれど、普通に話せた事に、麻衣子は驚いてもいた。
劇的なものを想像していたわけではなかったけれど、なんとなく。
こんな風に普通に会話する機会があるなんて、思ってはいなかったから。
カードだけのやり取りだったのに、こんな風に一緒にいるなんて。
とにかく、意外で、不思議でもあった。
彼は今、テレビに映るような人でもあるのだから。
カードを見て、いつか会えるかもしれないと思いながら、こんな風に近くにいることがあるなんて、思いもしなかった。
「……ありがとうね」
麻衣子は言った。
「何が?」
と彼が言った。
「忙しいんでしょうに、時間作ってくれて。話せて良かった」
「……うん、そうやな」
彼はそう言うと、目をそらし、立ち上がる。
「遅いけぇ、送るよって」
「そうね、もう出なくちゃ」
麻衣子も立ち上がった。
てっきり、駅までの「送る」だと思ったら、藤村成樹は麻衣子の家まで送る気のようだ。
一緒の電車に乗ると、彼の周りを、視線がうろうろするのが分かる。
「本当は有名人なのよね」
思わず麻衣子は言った。
「まぁ、顔はそこそこ売れてるみたいやで。嬉しい?」
「嬉しい? 何が?」
「俺と並んで注目されるの」
藤村成樹が、至近距離で、見降ろして聞いてきたが、麻衣子は首をかしげた。
「見られてるのはあなたでしょう? 私じゃないわ」
「ん、そうかもしれんな。でも、並んでる男が自慢できる男やったらうれしいもんやない?」
「自慢できる人? 周りの人に?」
「あー、ちゃうか、隣に居るのが、好きな男やったら、お嬢はうれしい?」
「そうね、それはそう。嬉しいと思うわ、きっと」
「今は? 嬉しい?」
「……不思議な感じだわ、なんだか」
「っさよか、お嬢、おもろいわー」
くすくすと笑いだした藤村成樹に、麻衣子は再度、首をかしげた。
続く
終わらなくてすみません。間が空いてすみません。
仕事なんか、いや仕事は大事ですが、うっちゃりたいです。畜生。
藤村成樹が、急いでレストランの前に戻り、2時間ぶりに再会した直後。
「私、門限があるの」
という上條麻衣子のセリフを聞いて、全くがっかりしなかったといえば嘘になる。
けれど。
占いは信じない主義5
「さよか。門限、何時なん?」
上條麻衣子に、藤村成樹はそう聞いた。
「10時、ですけど」
「あんま時間ないねんな。じゃ、コーヒーでも飲もか」
振り返って、角にあるコーヒーショップを指し示す。
「……そうね、ええ、いいわ」
気乗りしているのかどうか、よく分からないながらも、彼女はシゲの後をついてきた。
チェーンのコーヒーショップでフレイバーコーヒーを注文し、席につく。
数年ぶりに会った上條麻衣子に、全体的に、別人となったと思えるような、劇的な変化は、外見はなかった。
黒い長い髪も、あの頃のままだ。
席に座るとき、控え目な香水の香りが、鼻をくすぐったぐらいで。
それなりの格好と化粧をしてはいるものの、雰囲気も、あの頃のままのように感じる。
こんな風に再会するなんて、思ってもみなかった。
けれど、ずっと、会いたいと思っていた相手。
年に一度、送られてくる、バースデーカード。
シゲも毎年、送り返している、バースデーカード。
サッカーや、他の事にも色々と、忙しい日常を送ってはいても、彼女を意識し続けるには十分だった。
コーヒーショップでの会話は、今のお互いの現況報告からはじまり、同級生の現在と、昔話で終了。
さて、そろそろ電車に乗らないと、という時刻になるのは、あっという間だった。
「お嬢、そろそろ時間やな」
シゲは自分から口火を切った。
「そうね、そろそろ……」
彼女が時計を見て答える。
シゲに向けられる彼女の視線から、何か、シゲに対する好意のようなもの、その片鱗でも読み取れないものか、とシゲは思って彼女を見つめた。
占いは信じない主義4
麻衣子には、成否のいまひとつ分からない合コンの後。
麻衣子以外は二次会へと移動するらしい。
ちゃんと彼に電話しなさいよー、でも今日そのままホテルとかはダメよ? と麻衣子にこっそり言い残し、友人も行ってしまった。
すっかり日は暮れ、でも午後の残暑の余韻を残す街中で、麻衣子はためらいつつ、携帯を開いた。
そもそも、彼の意図は分からないし。
麻衣子に特別な感情なんてないのかもしれないし、ただ旧友と話をしたいだけなのかもしれないし。
うん、きっとそう。意識するだけ恥ずかしいことになるんだわ、きっと。
名刺を見て押した番号は、「もしもし、」 と数コールで繋がった。
「上條です。今、終わりました」
「おお、なんや事務的やな、お嬢。今どこに居るん?」
「さっきの、お店の前にいますわよ」
「さよか。ほんなら、5分ぐらいそこに居ってくれん?」
「……ええ、良いですけど」
「じゃ、5分後に」
通話を終えて、5分で本当に来るのかしら、なんて不思議と冷静になって麻衣子は待った。
本当に何年ぶりだろうか。彼に会うのは。
友達は、この後何事かを期待していたようだったけど。
まぁ、現実、これほど長く会っていない同級生同士が、今日、すぐにどうこうなるような事は、まずないだろう。
彼はどんな私生活を送っているか、麻衣子は知らないし。
彼も、麻衣子を知らない。きっと全然知らない。
たとえば、今日再会して、今日どうこうなるような麻衣子ではない。彼がどう思っていたとしても、だ。
はたして、彼が4分後現れた時、麻衣子の口から出てきたのは、
「私、門限があるの」なんてセリフだった。
実際、門限まで、2時間を切っていたのだが。
きょとんとした顔の藤村成樹を見ながら、今のセリフ、友人が聞いたら、さぞ怒るだろう、と麻衣子は思った。
占いは信じない主義3
「偶然やん。懐かしいなぁ。何年ぶり?」
彼がそう言った。
「あの、え? 佐藤、なんでここに?」
麻衣子は焦って、見当違いの質問をする。
「そう呼ばれんのも新鮮やなぁ。俺、今はもう、佐藤やないねん。仕事上がりで、飯に連れてきてもろたんよ。お嬢はどうしたん? 友達と食事? リッチやなぁ」
「違うわよ、別に……」
麻衣子は隣の友人を見た。
友人は、びっくりした顔で、麻衣子の腕をつついている。
「麻衣子、知り合いなの?」
「ええ、中学時代の同級生」
彼は、いつもの事、のような顔で、「どうもはじめまして、藤村ですー」と、軽い挨拶をする。
彼の連れである、スーツを着た35歳くらいの男性が、彼に何事か耳打ちをするために、彼の注意を引いている。
麻衣子はその間、友人に急かされてこそこそ話をした。
「ちょっと、麻衣子、あんな有名人と知り合いなんて聞いてないよ」
「だって、ずっと会っていないし、私だって驚いてるんですのよ」
「彼に気があるなら、合コンはいいから、行ってきなさいよ、こんなチャンスないわよ」
「だって、そんな、人数だってあるでしょ」
「そんなの気にしてないで! ほら、これがきっと、運命の出会いだってば」
「でもー」
と、ここで、彼側の会話が終わった。友人が素早く振り返って言った。
「あの、もうお食事されたんですか?」
「おお、食べてもうたで」
「そうなんですか、残念ー」
「君らは、合コンやろ?」
「えー、なんで分かっちゃうんですか?」
「あっちにそれっぽい集団居ったし。君の格好も気合入っとるし」
ぽんぽん交わされる会話に、麻衣子はついていけない。
「ねぇ、時間は大丈夫なの?」
麻衣子はつい、聞いてしまった。
友人がすごい形相で振り返り、麻衣子、黙ってて! のような視線を投げられた。
藤村成樹と、目が合った。
今日は麻衣子の誕生日。
もしかしたら、今日だって、カードが届いているのかもしれない。
彼は、麻衣子の誕生日を覚えているのかもしれない。
届けられているカードの意味をずっと知りたかったのに。
一言、聞けばいいのに。
少しの沈黙。
「青春やなぁ。ええ出会いがあるとええなぁ。ごゆっくり」
と、藤村成樹が言う。
「ええ、そうね……」
麻衣子は思わず目を逸らしながら、そう答えた。
それじゃぁ、なんて軽い挨拶を交わし。
彼らは店を出る雰囲気になった。
友人に目線で責められたけれど、麻衣子には何もできない。ただ首を振った。
「行こっか」
の言葉にうなずき、麻衣子と友人は彼らに背を向けて店を奥へ進む。
予約されていた個室へ着く直前、肩をたたかれ、振り返ると、彼が居た。
麻衣子の友人に向けて、内緒やで、とジェスチャーをし。
麻衣子の手に、名刺が差し出された。
彼の名前が書かれた名刺。裏返して見る。
『終わったら連絡下さい』
そんな字が書かれていた。
にやけて、彼に同じく内緒のジェスチャーを返す友人に、麻衣子はあわててカバンにそれを隠し、なにやら自身ありげな彼に一瞥をくれ、初めての合コンへと合流した。
合コン中、相手に失礼ではあるけれど、はっきり言って、うわの空だった。
つづく
占いは信じない主義2
7月8日は、麻衣子にとって、他の日よりも、ほんの少しだけ、特別な日だった。
その日にあわせて、バースデーカードを送るのが、毎年の習慣だったから。
特に深い意味はないのだから、と毎年言い訳をしながら投函するバースデーカード。
メッセージも、誕生日おめでとう、以外には入れない。
その相手、藤村成樹、は、中学時代の同級生だ。
それ以外に、説明する言葉を麻衣子は持たない。
相手からも、8月末の麻衣子の誕生日には、同じくバースデーカードが届く。
そんな、年に一度、夏のやりとりを繰り返す相手。
彼はこれまでに3度、住所が変わったけれど。彼の手元まで、どうにか届いているのだろう。新しい住所で、麻衣子の誕生日に届くバースデーカード。
単に、送られたから礼儀として送り返してくれているのか。
他に意味があるのか。
麻衣子宛てにシンプルなバースデーカードが届くたび、不思議に思う。
今年の夏こそ、返信はこないかもしれない。
そう思って、毎年投函しているのに。
カードが今年来なければ、ふっ切れる、そう思って投函しているのに。
返ってこなかった夏は、今まで無いのだった。
麻衣子の誕生日、8月29日。
彼の返信を待っているつもりはないけれど。
いつまでも彼を引きずっていても、仕方がないことは分かっているけれど。
こんな風に、連れてこられるとは思っていなかった。
「ねぇ、やっぱり私、やめておくわ」
麻衣子が何度目かで言うと、
「ここまで来たんだから、それは無いでしょ」
と友人は答える。
友人同士で誕生祝いするから、と麻衣子はすっかり騙されて連れ出された。
「だって、合コンだなんて言ってなかったじゃない」
「だって言ったらイヤって言うでしょ? 占いだって運命の出会いって書いてたんだから、試しに参加してみたって、いいでしょ?」
「だって、友達どうしで集まるって言ってたじゃない」
「ほら、もう店も見えてきたし。あきらめて、麻衣子。タダでご飯が食べられると思えばいいもんよ~」
「食べなくてもいいですわよ」
目の前には、大学生だけではちょっと入りづらい、料理の値段の見当がつかないようなお店が見えてきた。
友人はためらいもせずに受付に進む。
……こういうお店で合コンって、するものなの……?
麻衣子は内心考えつつ、彼女の背中に仕方なく付いて店内を進む。
「……あれ、お嬢?」
ふと、そんな声が背後にかかって、麻衣子は振り向いた。
「……佐藤?」
麻衣子も、懐かしい呼び名を呼んだ。
まさか、数年ぶりに。
こんな偶然に会うなんて。
彼はTVにも映る人だから、見間違えではない、のだろう。
藤村成樹が、そこに居た。
つづく
兎角、女性は占い好きだ。
女性誌の、『今年の夏、あなたの運勢』 なんて特集を、嬉々として女友達に勧められて、麻衣子は軽く肩を落とした。
占いで先のことが分かるなら、こんな簡単な事はないのに。
占いは信じない主義
大学構内でのランチ。
日替わりの定食メニューは、女子大だけあって、カラフルでヘルシーだ。
「ねぇねぇ、麻衣子って来月誕生日でしょ?」
友達がパスタを片付ける合間に聞いてきた。
「そうよ」
よく覚えているものだ。麻衣子はうなずく。
「ね、誕生日に向けて、彼氏探さない? 今週末合コンするんだけど」
「……どうして、誕生日に向けて、彼氏探しに合コンするの?」
「えー、一人で誕生日なんて嫌じゃない?」
「彼氏がいなくても、一人じゃない事もあるでしょ」
麻衣子は答えた。
去年の19歳の誕生日は、めずらしく両親揃って、ディナーに行ったし。
「友達と会ったりしてれば十分よ」
「あ・ま・い・よ! こんな機会でもないと、麻衣子、隙が無いんだから!」
「隙?」
「そうよ! 彼氏いらないわ~なんてオーラだしてたら、いつまでも出来ないんだからね! 誕生日もうすぐなのに、彼氏が居ないの~って、合コンでとりあえず言っときなさい! で、麻衣子なら必ず何人かからメール来るから、そんなかで一番マシな人と誕生日までの期間限定で付き合っちゃえばいいのよ」
「彼氏いらないオーラなんて、私、出してませんわよ」
「出してるよ! 合コンだって一回も来てくれたことないでしょー、数合わせでいいって言ってるのに」
「だって初対面の人と飲むものじゃないって言われてるんですもの。門限も10時だし」
「もー、箱入りムスメなんだから! とりあえずお試しって事でも、付き合っとけばプレゼントだって貰えちゃうんだからね!」
「あなた、そっちが本音よね?」
麻衣子は笑って彼女に言った。
ばれたか、なんて言って、悪びれないところが、憎めない友人なのだ。
彼女は、アイスカフェオレを飲みつつ言った。
「若い女の子の特権なのよー、おごってもらえるのも、プレゼント貰えるのも。男子から欲しいもの買ってもらえる機会、誕生日を棒に振るなんて、どうかしてるわよ麻衣子!
誕生日とクリスマスとホワイトデーと、あと七夕? ぐらいしかないんだからね!」
「七夕まで貰うの?」
「そうよー、願い事書いてさ」
「ふううん。この間の七夕は、何を貰ったの?」
「水着買ってもらっちゃった! 一緒に海に行こうねって言って」
「ああ、それは断れないでしょうね、彼も」
「でしょ? 絶妙でしょー、自分で買うには結構高いのよ、水着って」
「あなたの彼も大変ね」
「お付き合いはお金がかかるんですー、そういうものなんです」
威厳めいた口調で彼女は言った。
お嬢様学校、といわれる女子大学ではあっても、普通の大学生も大勢。当然、親元を離れていれば、仕送りやアルバイトで生活していて。
おしゃれも必須、でもそれなりの物はそれなりの値段がする、欲しいものは沢山。
彼氏がお金持ちだから、
こっそりお水のバイトしているから、
家がお金持ちだから、
エトセトラエトセトラ。
ブランド物で身を固めている娘もいる中で、上を見ればきりがない。
そんな中で、デート資金まで調達するのは、なるほど大変な事だろう。
まして、遊びに行くにも、食事をするにも、それなりの雰囲気のある、華やかなデートにはお金がかかる。
恋人に求めるステータス。
デート資金が用意できて。
車があって。
学歴もそこそこで。
ルックスも大切。
将来性があれば、なお良し。
「社会人と付き合ったらいいんじゃない?」
別の友人に、聞いた事が何度かあったけれど。
「社会人だと、仕事で好きな時に会えないし、連絡もぜんぜん取れないもん」
まぁ、中には真面目に恋愛している娘もいるけれど。
遊びたい盛りの大学生にとっては、お付き合いや恋愛は、学生時代の通過点なのだろう。
「ねぇ。合コン行かない?」
彼女がもう一度聞いた。
「彼氏を作って、誕生日プレゼント貰うために?」
「そのためだけ、じゃないけどー。いいじゃん、お付き合い一カ月ぐらいなら、デートだけで済むでしょ? キスもしなくてもいいかもだし」
「計算高いわね、ほんと」
麻衣子があきれ顔で言うと、
「そうよー、だって女ですもの」
と彼女はウインクをした。
この友人は不思議だ。
言っていることはめちゃくちゃ、なのになぜか憎めないのだ。
彼女は突然、傍らのカバンから女性誌を取りだした。
「ねぇ、麻衣子、じゃあさ、麻衣子の今月の占いの結果次第で、参加するか決めようよ」
「占いの結果?」
「ほら、おとめ座の今年の夏は、『運命的な出会いがある』 って」
麻衣子は、差し出された雑誌を見つめながら、肩肘を付いた。
占いで先のことが分かるなら、こんな簡単な事はないのに。
つづく
ご無沙汰してます。ほんと。
来てくださってる方、ありがとうございます。申し訳ありません。
拍手押してくださってる方、ホントに申し訳ないです。
本年もぼちぼちやっていきますので、すみませんが宜しくお願いします。
以下、SSにしては長いんですが、新作シゲマイです。
なんかとってもご無沙汰しております。
12月は繁忙月です。半端ないです。申し訳ありません。
更新したいのにno~
とりあえず、1本仕上げましたので
広い心でお読みください。
クリスマスもやりたかったのに(泣)
クリスマスも年末も年始も全く関係ないSSです。
すっっっかり間が間が空いてしまいました……
拍手をいただいてましたのに、お返事していなくてごめんなさい!
ありがとうございました。
こちらに来ていただいている方も、しばらく何にもなくてすみませんでした。
とりあえず、シゲマイ更新します。
ほんっと久しぶりな上に、ちょっとあやしい感じのシゲマイですが。
どうぞ。
いつぶりかわかりませんが明日はようやくお休みです。全休です。
半休はちらほらあったんですが、半休だと休んだ気がしないので。
とにかくゆっくり寝たいとおもいます……あと掃除と洗濯とムニャムニャ。
携帯でちまちま書いていたシゲマイSSが大分形になったので、更新します。
ひさびさにシゲがダメダメです。
どうぞ。